★『近代部落史』(黒川みどり)を読んで
★『近代部落史』(黒川みどり著)平凡社新書
タイトルの通り、近代(明治~現代)を中心に部落差別問題における被差別民の動向と彼らをとりまく当時の日本の状況について書かれています。
印象に残ったいくつかの点を羅列します。
●人種主義という視点
この本を通して書かれていることは、部落差別の根底には「人種主義」という考えがあることです。この考えは明治から現代まで一貫して「部落民は朝鮮人、あるいはその他劣等民族であり、大和民族ではない」といったような主張に基づいています。
この「人種主義」に対して「起源説」という、部落差別は江戸時代の身分制度によって生まれたのだと主張する考えが対抗軸として生まれました。
「人種主義」という考えは、現代の技術によって遺伝子の分析などを行えば、被差別民も何ら変わりない大和民族であることを証明できるのですが、近代においてはそのような技術は無いために学者が「人種主義」を主張すれば、それが一般大衆にも受け入れられるため、差別は当たり前のように慣習として残っていたようです。
●行動する被差別民たち
被差別民たちは、差別の現状を打破すべく近代になると団体を組織し、解放運動を始めました。代表的なものには「全国水平社」などがありますが、それ以前には地域単位での組織や政府とつながりをもった団体(帝国公道会)がありました。
差別からの解放 を目標にすることはどの団体にも共通ではありましたが、それぞれの行動様式の違いによって衝突を繰り返し、彼らは時に内部分裂を起こしました。
そこには、メリットもデメリットもあったでしょう。特にデメリットとしては、政府の後援を受けていた「帝国公道会」などの台頭によって解放運動は政治の道具になりえたこともあったようです。
被差別民たちは、一貫して差別からの解放を求めたのは明らかですが、その過程で彼らのよりどころとなった思想にはばらつきがあるようにも思えました。
時には、天皇を中心とした国家主義に非常に協力的になったり、また共産主義の影響を受けることで逆に天皇制を差別の根幹とすることもあったりしたのです。
特に戦時中は、天皇中心主義が国民に求められ、被差別民は協力的でした。なぜなら被差別民以外の国民と行動を共にすることで、被差別民の立場も他の国民と同様になるのではないかという考えがあったからです。
時代の思想や政治体制に翻弄された被差別民たちの歩んできた歴史が本書には読みやすい文章で書かれています。
差別問題などにご興味のある方にはおすすめです。
- 作者: 黒川みどり
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2011/02/16
- メディア: 新書
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